「やーい、弱虫。」
「アハハ!こんな大きな体でよく泣くぜ」
「や、やめてくれよ〜。」
小さきころから体は大きいのに、弱虫ですくに泣いてしまう浪右衛門は、いつも近所の子供たちにいじめられていました。
そんな浪右衛門を心配した両親は、「明日から毎日、瀬高にある清水観音様へお参りに行って、強くなれるようにお願いしなさい。」と言いました。
さっそく次の日から、「気を付けて行くのですよ」と言うお母さんに見送られて、毎朝8キロメートルの距離を、歩いてお参りに行くようになりました。
お参りを初めて49日目、帰りの山道で、子牛ほどもある大きなカブトムシに出会いました。
「わぁ、どうしよう。」
この道を通らなければ、家に帰ることができない浪右衛門は、困ってしまいました。
浪右衛門は、泣きたいのをこらえて、おそるおそるカブトムシに近づき、「道のはっしっこでいいので通らせてください。」と言いました。
しかし、カブトムシは角を高く上げて、浪右衛門を押し倒そうとします。
浪右衛門も怖いのを我慢して、必死でカブトムシを押し返そうとしました。
それから約1時間ほど、カブトムシとの押し合いは続きました。
浪右衛門は「う〜ん、う〜ん。」とうなりながら、今まで以上に力を入れると、カブトムシを道の脇に押し出しました。
体中が汗だらけになった浪右衛門は、「ふぅつ。疲れた。」と言って、近くの石に座ると、手拭いで汗をふき始めました。
しかし、手拭いはすぐに汗でビショビショになってしまいました。
そこで浪右衛門は、手拭いを絞ろうとねじりました。すると、手拭いはあっけなく「プツンッ!」と切れてしまいました。
「あれ!なんで、こんなに力が強くなったんだろう?」と浪右衛門は驚きました。
実は先ほど浪右衛門が押し出したカブトムシは、観音様が変身したものでした。
観音様は、毎日頑張ってお参りに来た浪右衛門の願いを叶えるため、押し合いをしながら強い力を与えてくれたのです。
その後、浪右衛門は19歳のときに江戸に行き、力士になりました。
努力を忘れずに稽古をしたので、27年間も力士を続けることができました。
その強さは「天下第一」と言われるほどでした。
また、浪右衛門は誰にでもやさしく親切だったので、多くの人に好かれていましたが、力士を引退した次の年に47歳で亡くなりました。
津島東区には、浪右衛門の供養塔とお墓が並んで建てられました。
今でも地域の人たちによって大切に守られています。